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さて難関の「役員報酬」(自分自身への報酬)です。
前回まで、出張日当や社宅、家族への給与支給、退職金や小規模企業共済等、法人から個人に支払った金額が非課税(または税負担が軽く)になる方法を紹介してきました。
自分自身への役員報酬も、家族への給与と同様、所得税に関しては103万(基礎控除+給与所得控除)までは非課税、住民税も93万~100万(自治体による)までは非課税となります。
しかし、自分自身への役員報酬は単純に「所得税や住民税がかからない金額に抑える」だけでは足りず、複雑な判断が必要になります。
その原因は主に下記のようになります。
①社会保険料が必ず発生する
社会保険料の負担が発生するラインとして「130万の壁」があり、家族への給与を年間130万円以下にすることで社会保険料の支払いを免れることができました。
しかし130万以下に抑えることで社会保険料が免除されるのは、非常勤役員や従業員等の場合のみです。
常勤役員は金額にかかわらず社会保険への加入が必須になるため、必ず社会保険料負担が発生してしまいます。
なので、専業大家かつ法人の代表者の夫は役員報酬を130万円未満に抑えたとしても、サラリーマンとして外の会社で働いている妻の扶養に入るという方法で夫の社保負担を免れることはできないのです。
②「節税」と「個人への所得移転」が相反する
常勤役員の役員報酬は社会保険料から逃れられない上、その負担額も会社負担分 + 本人負担分合わせて約30%もかかり、その上に所得税・住民税が課せられます。
節税や社保の節約を重視して役員報酬を少額にすると個人への所得移転ができないし、逆に個人への所得移転を重視して役員報酬を多く設定すると所得税・住民税と社会保険料で相当な金額を持っていかれます。
単純に節税重視で「法人の税額 + 個人の税額+社会保険料」を最小にする金額を役員報酬にしてもよいのですが、その場合、個人のお金と法人のお金では使う際の自由度がまったく違うということが考慮されていません。
好きなようにお金を使うために、多少の税・社保の負担をしてでも個人に所得移転する(個人で自由に使えるようにする)必要があるのです。
よって、「節税(&社保の節約)」と「個人への所得移転」が相反してしまい、片方を重視すれば片方を諦めなければならないというジレンマがあり、自分がどれだけ税・社保を負担して自由なお金を手に入れたいか、という個人の性格・意向によるところがあるのです。
③単純に税や社会保険料の金額だけでは判断できない
仮に「法人で稼得した利益をそのまま個人に役員報酬として支給しなければいけない」という前提があるのであれば、「法人税 + 社会保険料 + 個人の所得税&住民税」でかなりの重税となり、人によっては法人化しない方がマシかもしれません。
しかし、実際にはそのような前提はないので、法人で稼得した利益はそのまま貯めておき、次の物件取得の頭金として再投資できます。
不動産賃貸業の規模拡大の途上のステージであれば、無理に高額な役員報酬を払う必要はなく、役員報酬を抑えて税金や社会保険料を少なくすることで、法人の安い税率だけを享受して手残りを増やして再投資、まずは規模拡大を優先する、といった選択肢もあります。
また、不動産賃貸業は融資が物件取得においてかなり重要になりますが、一般に個人では信用力に上限があり、どこかでストップがかかるときが来ます。
金融機関から、「今後も継続して融資を受けるためにも、法人化をしませんか」と提案される場合もあるでしょう。
融資の可能性を広げるため、つまり規模拡大のためという点で法人化は意義があると言えるでしょう。
結局、役員報酬はいくらにしたらいいの?
役員報酬をいくらにすべきかは、
・どれだけ税・社保の負担を覚悟して、個人で自由に使いたいお金を手に入れたいか
・役員報酬以外で法人から個人への所得移転する方法(社宅や出張規定、経費化、その他色々)をどれだけ持っているか
・法人での規模拡大の最中かどうか(規模拡大の最中であれば法人の低い税率だけを享受する
ためにも、税・社保でお金が流出する役員報酬は抑えるほうがよい)
・不動産以外に、サラリーマンの給与や個人事業の収入があるか(役員報酬を多くしなくても生活できるか)
・役員借入金がどれくらいあるか(予想外の急な出費で個人でお金を使う必要があるときに、法人からお金を引き出して自由に使える余力がどれだけあるか)
・退職慰労金を検討する年齢か(毎月の役員報酬の金額が大きければ、退職慰労金も大きくなる)
等々、本人の意向、個人所得、年齢、規模拡大のステージ等、人それぞれの事情を総合的に勘案し、ベストな役員報酬を顧問税理士と相談しながら落としどころを探す、ということになります。
役員報酬の検討は個別性が強く、オーダーメイドで対策を練ってもらう必要があるため税理士とのコミュニケーションが非常に重要となりますが、税理士とのコミュニケーションをスムーズにするための前提知識として社会保険料の基礎を次回から説明していきます。
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(次回、「社会保険料の脅威|法人から個人への所得移転⑬」に続く)