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(前回)
法人化をするにあたり、規模拡大したいのであれば意識しておきたい大まかな流れは下記の通りでした。
①税率が高くなるまでは個人で物件取得をする
②「給与所得+不動産所得」が多くなり個人の税率が高くなってきて規模拡大の妨げになってきたら、法人で物件取得していくことで税率を抑えて、個人への所得移転よりも事業規模拡大を優先する
③ある程度の規模のキャッシュフローが生まれる体制が整ってきたら、法人から個人への所得移転の方法を考える
④減価償却による赤字を他の所得と通算して税還付を受けたり、売却時に長期譲渡所得を享受したりする等、個人で取得するメリットもあるので、物件ごとに個人・法人を使い分けることも有効。
⑤年齢によっては相続対策としての法人化も併せて考える
今回は、個人と法人で細かな条件を比較したいと思います。
法人化のメリット
1 税率が安い
個人の場合、増加する不動産所得に対して所得税+住民税で最高55%(+復興特別所得税)がかかりますが、法人の場合は33~34%程度となります。
2 給与所得控除を利用して所得の分散による節税ができる
非課税枠までは家族に給与を支給することで節税できます。個人事業主の青色専従者給与よりも使い勝手がよいです。
3 欠損金の繰越年数
赤字(欠損金)を繰越できる期間が、個人は3年に対して、法人は10年まで可能です。
4 節税対策や経費の範囲
社宅や出張日当といった、法人でしかできない節税策があり、交際費と認められる範囲も個人より広いです。
そのほか、生命保険料等は個人は上限12万円なのに対して、法人は全額が損金となります。(ただし節税商品に近い保険等は制限あり)
5 消費税の免税期間
新規設立してから2年は免税事業者なので、個人で最初の2年免税を享受したあと、法人設立してさらに2年の免税を受けれます。
とはいえ、令和5年10月からスタートするインボイス制度により、実質的に免税事業者ではいられなくなる可能性があります。
免税事業者の売主からテナント物件や事務所等の建物を買うと、建物に対応する消費税について買主が仕入税額控除できず負担が多くなってしまうため、取引の阻害になる(買主がそのような取引を敬遠する)可能性があり、売主の立場に立つことを想定した場合、課税事業者になってインボイス事業者の登録することを選択せざるを得なくなるかもしれないのです。(居住用の賃貸物件であれば影響はありません)
6 任意償却ができる
法人は任意償却で所得をコントロール可能です。
税率が低くなるよう、所得を800万以下のに毎期抑えたりすることができます。
7 信用力の増加
一般に、個人事業主よりも法人の方が信用力があると言われます。
事業のお金と家事消費が混在することがある個人よりも、事業に関することしか決算書に載ってない法人の方が、金融機関としても安心なのかもしれません。
8 個人は不動産所得が赤字の場合、土地に関する借入金の利子を損益通算できないが、法人はそのような制限はない
法人は「損益通算」という概念ではなく、事業に関する収益費用はすべて合算されるため、土地に係る借入金利子が切捨てられるということはありません。
9 不動産の譲渡損を他の損益と相殺できる
不動産の譲渡損が発生した場合、
個人:他の事業所得や給与所得と損益通算できず切り捨てられてしまう。繰越も不可。
法人:売却損を他の益金と相殺できるし、赤字も繰越できる。
つまり、法人のほうが売却損が出た時に対するリスクヘッジができます。
ただし、キャピタルゲイン(売却益)が出る場合で長期譲渡所得の場合は、税率の低さで個人に軍配が上がります。
12 所得税の実質増税の傾向
所得税について、給与所得控除が年々下がってきていることや、所得2500万円を超えると基礎控除が0円になる等、「税率はそのままだけど所得控除を少なくして実質増税」という方向性がある一方、法人税は逆に減税の傾向にあり、法人化するのに最適な個人の給与所得が段々下がってきています。
(余談ですが、住宅ローン控除を使える人は所得3,000万円以下だったのが、税制改正により2022年4月から所得2,000万円に引き下げられてしまいました。個人への課税強化は今後も進んでいきそうです)
13 相続対策のバリエーションが広がる
個人で不動産を所有した場合、物件ごとに個別の資産が評価され相続税が課されますが、法人で不動産を所有した場合は法人の株式評価額に対して相続税が課されるため、株式の評価を下げるための様々な方法がとれます。
また、不動産の所有権移転には、登録免許税や不動産取得税等の税金(いわゆる流通税)がかかりますが、法人化して自社株を譲渡、贈与等をする場合、流通税がかからないため相続対策に有効です。
法人化のデメリット
法人化のデメリットは下記です。
1 赤字であっても、住民税の均等割(最低7万円)が必ずかかる
2 株式会社の場合は、定期的に公告のコストや役員の登記のコストがかかる
3 税理士は必須。税理士報酬も個人より高くなる。
4 法人は青色申告控除(65万円)がない
5 法人所得が800万円超の場合、長期譲渡所得より税率が高い
6 法人から個人への所得移転が必要
1~4に関して、定額で発生する費用が多いというデメリットがあると言えます。
取得する物件から生じる所得が小さいと、税率によるメリットが法人のランニングコストに負けてしまう可能性があるので、法人化するのであればきちんと個人で取得した場合と比べてどうなるかを計算したいところです。
5については言わずもがな、どんなに売却益の金額が大きくても税率が約20%固定の長期譲渡所得の魅力は強力です。
6についても、法人から個人への所得移転まとめで説明した通り、法人から個人へできるだけ非課税で所得移転する制度作りが必要だったり、役員報酬で個人に移転しようとする場合はある程度の税・社保負担が必要になるということがデメリットです。
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