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前回、法人では「所得800万の壁」を理解することが重要であることを説明しました。
今回は800万の壁が具体的に税額にどのように影響してくるのか、減価償却を用いて説明します。
減価償却は節税なのか?
事業を行っている人であれば、「減価償却で節税」という言葉はどこかで聞いたことがあると思います。
ある程度経験があれば、「減価償却は、建物の取得金額を耐用年数の期間で配分して費用化しているだけ」ということに気が付いているでしょう。
そして、減価償却をすることで単年度では税額は減るものの、売却の時に減価償却した分だけ課税されるので、どちらかというと節税ではなく「課税の繰り延べ」の効果に近いということにもお気づきでしょう。
例えば下記のような例を前提に考えてみましょう。
(例)
賃貸用の中古木造アパート(築30年)を4,200万円で法人名義で取得した。
(売買契約書には土地建物内訳として「土地 2,200万円 建物2,000万円」と記載)
このアパートから得られる家賃収入は毎年500万円である。5年後の年度末に取得時と同額(4,200万円)で売却した。
簡便法による耐用年数に基づき減価償却していた場合の1年目から5年目までの各年の法人税等の負担額はいくらになるか。
税率は下記のものを使用することとする。また、住民税の均等割りは考慮しない。
所得400万まで 21.36%
所得400万~800万まで 23.17%
所得800万超 33.58%
(なお計算の簡易化のため、取得に係る諸費用や、保有中の修繕費および募集にかかる手数料等は考慮せず、空室や賃料の下落も考慮しない)
中古アパートを取得した場合の簡便法の耐用年数の計算は
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
となります。
木造アパートの法定耐用年数は22年、このアパートは築30年で既に法定耐用年数を過ぎているので、単純に「経過年数×20%」が耐用年数となります。
つまり、22年×20%=4年(端数切捨て)
よって、建物2,000万円は4年間、定額法で減価償却されます。
1年あたりの減価償却費
2,000万÷4年=500万円となります。
その結果、各年度の所得と税額は下記のようになります。
※実際の仕訳では、「売却額 – 売却原価」の差額を「売却益」として純額計上しますが、視覚的にわかりやすくするために売却額を売上、売却原価を費用として別々に表記しています
なんでこんなに高いのか
上記のとおり、1年目から4年目までは税金が0円、5年目に約749万円が発生します。
実際にこのような状況に直面したら「749万円!!??」と驚愕してしまうかもしれませんね。
何しろ、毎年の賃料収入でさえ500万円なのに、そして買った値段と同じ4,200万円で売却しているだけなのに、749万円も納税しなきゃいけないの?と。
どうしてこうなってしまうのでしょうか。それには減価償却が関係しています。
建物2,000万円を耐用年数4年で償却するということは、1年目~4年目までは所得が0となりますが、5年目以降は減価償却費はゼロになるし、建物簿価残高もゼロになってしまうので売却したときに会計上の利益(所得)がたくさん出てしまうのです。
単年度では税金は減るが、結局後になってから税が襲ってくる。これが減価償却は節税ではなく課税の繰り延べだと言われてしまう理由ですね。
800万円の壁を超えると税率が上がる
そして、ここからが本題なのですが、売却時の税金が多額になってしまっている原因がもう一つあります。
それは、「所得800万円を超える部分の金額が多い」ということです。
所得が800万円を超えると、高い税率である33.58%で課税されてしまうのですが、この部分が大きくなることで全体の税額も多くなっているのです。
所得が2,500万円ということは、2,500万- 800万 =1,700万円もの部分が33.58%という高い税率で課税されていることになります。
この例では、減価償却を簡便法に従って4年で償却してしまったために売却時の建物簿価がゼロになり、売却益が多額になることで、高税率の800万円超の部分も多額になってしまいました。
これを「任意償却」という方法で減価償却の金額をコントロールすることで、「800万円以下の低い税率で課税される範囲内に所得を抑える」ということが可能になります。
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(次回「目先の税額をゼロにするだけが節税じゃない|減価償却で税をコントロール②」へ続く)