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前回、短期譲渡を予定しているのであれば、取得時に建物に按分する金額を調整することで、売却時まで含めたトータルの税金を抑えることができると説明しました。
長期譲渡の場合は、場合分けが必要になります。
具体的には、「5年経過して長期譲渡所得が適用されるようになったらすぐに売却する」か、又は「そのまま保有し続けるか」で対応が変わります。
今回は、「長期譲渡になったらすぐ売却する」ケースを前提に説明します。
限界税率が長期譲渡の税率(20.315%)よりも低い場合(長期譲渡になったらすぐ売却するケース)
→建物への按分は少ないほうが有利
家賃収入による不動産所得の税率よりも、売却時の税金(長期譲渡所得)の方が税率が高いので、減価償却費を少なくして不動産所得を多く、売却益を少なくするほうが有利のため、建物への按分を少なくする方が有利です。
限界税率が20%以下というと、
・年収450万以下のサラリーマン大家が、地方の築古戸建て等を格安で購入するパターン
・サラリーマン退職済の専業大家で、基本的に法人で物件を取得しているため個人では所得が少ない(法人からの少額の役員報酬のみ)等のパターン
がなどが該当します。
ただし、売却する5年間の間に物件をどんどん追加で購入して不動産所得が大幅に上がる予定だったり、転職で給与が大幅にアップする可能性があるのであれば、限界税率も上がるので下記の「限界税率が長期譲渡の税率(20.315%)よりも高い場合」を参照したほうがよいでしょう。
限界税率が長期譲渡の税率(20.315%)よりも高い場合(長期譲渡になったらすぐ売却するケース)
→建物への按分は多いほうが有利
家賃収入による不動産所得の税率よりも、売却時の税金(長期譲渡所得)の方が税率が低いので、減価償却費を多くして不動産所得の金額を少なく、売却益を多くするほうが有利です。
特に限界税率が50%以上の高所得の方は是非とも長期譲渡所得のメリット(税率20.315%)を享受したいところです。
ただし、木造アパート等で耐用年数切れの中古物件を取得する場合は、簡便法だと耐用年数4年になり、5年目で減価償却費が計上できず不動産所得に対する税金が重くなるため、見積耐用年数を適用して耐用年数を5年以上にする等の対策をしてもよいと思われます。
(参考)海外不動産節税スキーム(改正済)
数年前、海外中古不動産を購入して節税するスキームが高所得者の間で流行りました。
①建物比率を大きくとって多額の減価償却費を計上して不動産所得を赤字にし、給与所得と損益通算することで多額の税還付を受け取る
②売却時には長期譲渡所得(20.315%)の税率を享受する
所得税と住民税で55%となるような高所得者は、不動産所得の損失×55%が還付されるので、減価償却費を多くとればとるほど還付されます。
一方で、減価償却費を多く取ると売却時の譲渡所得が増えますが、そこには20.315%しか課税されません。
なので、買った値段と同額で売却できれば、その差額35%分が節税できるということになります。(ほかに売買時の手数料や、保有時の管理費、保有時の賃料収入等も考慮する必要はあります)
アメリカの不動産は築古であっても建物の価値が落ちにくいという特色があり、
・建物比率を多くとることができ減価償却費を多額に計上することができる
・経年で建物の価値が落ちないので売却時にも値下がりしないことで、(減価償却費の計上により会計上の)売却益が出せる
という点で、長期譲渡による節税にうってつけとして一部の高所得者の間で注目されていたそうです。
しかし、このスキームも令和2年に「海外不動産の減価償却費をなかったものとみなす」と改正されて封じられてしまいました。
この方法は日本国内の物件であれば、理論上はまだ可能です。
しかし、土地の価値が低い場所の収益物件を取得し、建物部分を多くとって減価償却費を計上して給与所得と相殺して税還付を受けることはできても、 そのような立地の物件は、売却時に高値では売れないのでキャピタルロスが出てしまい、税還付を受けることはできてもトータルで損をしてしまう可能性があります。
ただし、売主が消費税の免税事業者で、売買契約書に記載する土地建物の比率にこだわりがない場合、建物比率を多くするチャンスです。都内のように本来は土地の比率が高い物件でも上記のような節税が可能になります。(建物比率を不自然に高くしすぎると否認されるリスクが高まりますので注意してください)
なお、この「海外不動産の減価償却費をなかったこととする」という改正はあくまで個人の場合であり法人には適用されませんが、法人の場合は(当然ですが)個人の給与所得との相殺はできません。
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(次回、「個人の減価償却で節税する難しさ| 減価償却で税をコントロール⑪」に続く)